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理解の外  2004年 2月29日(日)

さて困った。
大家さんに対して”むげ”にすることもできない。

『ワイン持っていくからメニュー教えて。』
そんなことを言われ、“どうせその辺のスーパーとかで買うんでしょ・・・” なんて考えながら、前菜にラタテュイユ、メインに丸鶏のローストを作ることを伝えて、大家さんを招いた。

晩餐の日。
前回とは違う紳士的な服装で、ワインを持って現れた。
『うん、良い香りですね。』
そうひと言いうと、部屋に充満する料理の香りをつまみに、持って来たシャンパンを開けた。
続けて赤ワインも開け、部屋の隅に置いて、

乾杯。


!?

・・・・・・っ・・・!!!


・・・そうか。。。

こういう可能性も少しは考えたけどね・・・。


今でも鮮烈に思い出せる。

アルローというシャンパーニュ地方の小さな作り手の2001年のものだった。
しかも “ブラン・ド・ノワール” 赤ワイン用ぶどう品種で作ったシャンパンだ。

とてもきれいな金色の泡立ちと、気品のある薫り。口の中で気泡と香りが膨らみ、収縮しながらしっかりとした酸味とほのかな完熟ぶどうの味わいが喉を流れる。

複雑な旨味が下の奥に残した余韻を密かに楽しみながら、僕はラタテュイユに生ハムを添えて出していた。

そう、僕の予想に反して、理想的な晩餐が始まる。

この人、本人が言うだけあって、食べなれている。
料理の味もよく分かっていた。

ラタテュイユとは、要は野菜のごった煮だが、僕のラタテュイユは煮ない。
簡単に説明すると、ズッキーニや茄子やピーマンをそれぞれべつに、一切れ一切れがきれいに色づくよう少量ずつポワレする。色づいたらニンニクを加え、すぐにザルにあけ、酸化した余分な油を捨てる。全ていため終えたら、別に完熟トマトから作った、ラタテュイユ用のトマトソースに入れ、余熱でなじませ、一体感のある味に仕上げ、一日冷蔵庫に寝かして味をまろやかにし、次の日に酸味と塩味のバランスを整えて、生きた酸によって全体の味を引き締め、提供する。

それを食べて、
『お、バニラの薫りがするのは珍しい。』
と。
隠し味に使っているものをぴたりと当てられた。

ちょっとまて。

この頃こんなことばっかりだ。。。

“世界はひろい・・・”
(世界は怖い・・・。)

僕はもっと謙虚になろう。

隠し味なのだから、当然気づかれてはイケナイ。
分かるか分からないかくらい微量にいれて、味をより複雑に、官能的にするもの。
それが、ひと言目に言われるなんて。

それに加え、ラタテュイユに会わせて持って来たのがこの ブラン・ド・ノワールのシャンパンとは…。
僕の香りが強いラタテュイユと合い過ぎる。
意図せず、隠し味のバニラが(もう隠れてないけど)シャンパンとラタテュイユとをより絶妙なマリアージュにしている。

ちょっと怖くなって、オーブンへ丸鶏の様子を確認しにいった。
思わぬプレッシャー。

想定外。

丸鶏は特別なことは何もしていない。
ただ、香味野菜とハーブを一緒に入れてのオーブン焼き。
オーブンの扉を開け、視覚で焼き加減、嗅覚で庫内の香り、聴覚で油の音、風の音から温度と火入れの状況を推察しながら、バターを加えてアロゼする。

シンプルなだけに、細心の注意が必要だ。
ごまかしは利かない。

大家さんはシャンパンと同時に開けておいた赤ワインをほんの少しグラスに入れて、香りを嗅いで、僕にわたす。

なんて芳醇な香り・・・  。


っと、すいません。
この日の晩餐はまだ続きますが、思い出すのはこれくらいにしておきます。 
長くなりすぎてしまうので。


さて、この大家さんの正体は?

この方は藤さん

10代からフランスに来ていて、フランスの某有名大学卒。もう20年以上フランスで過ごしている。
奥さんはエリザベスさん。子爵の家系に生まれたとても優しい温和なフランス人女性。

藤さんはWebサイトのシャトーマガジンの編集長。
http://www.francechateaux.jp/TOP/home_2.html
写真家でもあり、評論と、写真を一人で二役こなせる器用な人。

ワインに関しては、フランスからシュヴァリエ勲章を8個も貰っている変人。

フランス上流階級と付き合いがあるだけあって、とても博識。
音楽にも造詣が深く、仕事部屋には、古いアンプやら、どでかいスピーカーやらいろいろあって、やたらクオリティの高い音楽を聴いている。
アップテンポなジャズから荘厳なパイプオルガンまで、壁一面にCD。

ということで、前回 僕が否定しまくった藤さんの話は全て本当でした(猛省)。

世の中には、僕の理解の外を歩まれている方が きっと、他にもたくさんいるのでしょうね。

藤さんと出会ったおかげで、アルローの作り手と懇意になり、その家族に料理を振る舞う代わりに、垂直デギュスタスィオン(僕の生まれ年の1976〜2000年のミレジメシャンパン)をさせてもらったり、ロマネ・コンティのリシュブールなど普通はなかなか飲めないワインばかりを飲ませていただきました。(もっとも、常にそのワインに見合う料理を求められたので、金銭的にも技術的にも時間的にも 非常に大変ではありましたけれど。)

王道と言われる伝統的ワインは藤さん、自然派ワインはジャンパスカルとイヴ・シャルル(シェフ)に教わるという、僕には身に余るとても贅沢な教師を持つことになったのです。


最後にひと言。

藤さん、いかに当時本当に思った事とはいえ、正直に失礼なことを書いてごめんなさい。。。


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No title

コメ1番乗り~!ゲットぉ~~!!

まずはおかえりなさい。
ご無事でなにより。

ひとつひとつの出来事が
今現在につながってる。
すごい出会いに感謝だね。

まだまだ話の続きを楽しみにしてます。
プロフィール

阿佐ヶ谷のシェフ

Author:阿佐ヶ谷のシェフ
kazuyuki ZENTO (善塔一幸) オーナーシェフ

フランスでの最高の7年半を終え、帰国。
パリ14区に実在した一ツ星レストランのエスプリを引き継ぎ、 “La Maison Courtine" 阿佐ヶ谷でオープン  
場所 杉並区阿佐ヶ谷南3−37−10Ysディセンダンツビル1F

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